Cannabinoid Magazine

HHCH大麻グミ騒動から見えた問題点と未来予測をどこより詳しく解説

2023年11月29日
「大麻グミってなに?一体何が入っていてどう危ないの?」
「HHCHとその効力とは?
 
 
「精神作用物質を食べることの危険性とそのメカニズムを解説」
 
 
「精神作用物質の未来予測と今後の考えられる対策とは」

目次

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はじめに

今回の東京都武蔵野市で開催されたお祭りで精神活性作用の強いHHCHを含有するグミを意図せず摂取してしまい、体調を崩された方や怖い思いをされた方、本当に大変なご経験をされたことと思います。
 
 
既に回復されているとは思いますが、経験した事のない圧倒的な精神的、肉体的体験が、強く、恐ろしい記憶として刻まれていないことを心から願っています。
 
 
この出来事の発端となったHHCHグミ、一体何が悪かったのでしょう?品物でしょうかそれとも摂取者によるのでしょうか?
 
 
そこで、HHCHグミによる健康被害の原因を細かく探りながら、HHCHだけでなく今後出てくるであろう新しい精神活性作用を伴う物質の未来についてまで考察したいと思います。

HHCHとは

HHCHとは、Hexahydrocannabihexol ヘキサハイドロカンナビヘキソールと呼ばれる精神作用を伴う化学物質です。
 
 
THCHという物質の水素化形態で、大麻に含まれる最も有名な成分THCに類似した作用を持つと言われています。なお、HHCHの元となるTHCHは、日本では2023 年8月4日から指定薬物として規制され、水素化形態HHCHも今回の大麻グミ騒動を受けて2023年12月2日から指定薬物となります。
 
 
つまり、HHCHは、THCHが規制されてから約4ヶ月の間、合法成分として国内市場に流通していた事になります。
THCHについての関連記事

HHCHが「脱法大麻」と呼ばれた理由

指定薬物THCHを水素化した時点で化学組成が変わります。すると、異なる物質として違法性が無くなり、通関する事ができるのです。これが「脱法」と呼ばれる所以です。
 
 
しかしこの成分が大麻かというとそうではありません。
 
 
THCHは2020年にイタリアの研究チームによって天然に存在する麻植物から分離されました[1]が、この研究ではTHCHはFM2という特定の医療用大麻品種にわずか0.1%しか含まれていないと言っていますので、大量に生産する必要のある商用利用をを考えると、一般的に流通するTHCHは化学合成成分であると考えることができます。
 
 
ACS Laboratoryの情報[2]によると「テルペニル化と呼ばれる反応を使用し、ヘキシルレゾルシノールという物質とPMDと呼ばれるテルペン誘導体を結合させてTHCHを作り出せる」と言っていますので、合成成分であることは間違いないでしょう。
 
 
つまり、水素化されたHHCHは大麻由来の成分ではありません。指定薬物の化学組成を変えた化学合成物質ですから、脱法「大麻」というよりは脱法「化学合成物質」もしくは「成分」と表現した方が適切でしょう

救急搬送されるほどのHHCHの効力とは

HHCHの効果は、元となるTHCHから推測出来、以下のような立ち位置であると考えられています。
 
 
THC < THCH(中間) < THCP(THCの約33倍)
 
 
つまりTHCHの精神作用は、THCの10〜15倍強力であると考えられるため、水素化されたHHCHも同等程度の効力を持つと推測できます。
 
 
しかし、レビューベースの情報では、「そこまで極端に強い効果を伴うものでは無い」とも言われているため、正確なことはわかりませんが、HHCHが大麻に含まれるTHCよりも数倍強い精神作用を持っている事だけは間違い無いでしょう。

HHCHの効力と脱法と呼ばれた理由がわかるInfographic

ここまでのことを踏まえて、4つの成分、THC、THCH、HHCH、THCPの化学式を1枚のInfographicにまとめました。

 

炭素鎖(カーボンチェーン)と呼ばれる赤く記した右側のギザギザの数が多ければ多いほど、精神作用が強くあらわれます。

 

また、全て形が似ていることは、同じ様な効果をもたらすことを示唆しています。

 

なお、今回問題となったHHCHは、その成分の中に9Rと9Sという二つの形が存在し、その物質内の9Rの割合が高ければ高いほど精神作用が強まり、9Sはほぼ精神作用を発揮しないと言われています。

HHCHの口コミをRedditで確認した結果意外なことがわかった

アメリカの有名な口コミサイトRedditでHHCHについて調べてみたところ、驚くことに検索上位10位までの結果の中の半数が“日本のHHCH”についての情報でした。
 
 
これまで様々な成分が日本に輸入され、その都度Redditを見てきましたが、ここまで日本国内の販売店情報や、ECで購入した製品について語られているのを見るのは初めてです。
 
 
このことから、渡航者や日本に住むネイティブにまでも日本のaltcannabinoids(代替カンナビノイド)の認知度が高まっているという事と、HHCHに関する海外情報はかなり少ないということがわかります。

HHCHに関するユーザーコメント

HHCHの効果について海外のユーザー情報を見ると、「非常に強力」「少量で12時間以上ハイが続く」「Vapeに含めるには10%では強すぎる」「初心者は正気を失う」など、非常に強力な効果を持つことを示すコメントが多いのですが、日本国内のVapeカートリッジについてのコメントでは、「20%では少し弱い」「50%では強すぎる」など、海外ユーザーのコメントからは考えられないほど1本のVapeに含有されている量が多く、中にはHHCH90%配合という商品もありました。
 
 
これは単純に国内に輸入されたHHCH原料の質が悪いのか、販売業者が競合とのシェア争いのために否応無く濃度が上がっていった結果なのか、もしくは規制を見据えて在庫処分のために意図的に高濃度にして販売しているのかはわかりません。
 
 
このように海外のユーザー情報と日本国内に出回っているHHCH製品に関する情報を比べると、効果の程度に大きなギャップがあるように見受けられましたが、いずれにしても一様にHHCHは「強力な効果」を持つと言われています。

HHCHのバイオアベイラビリティは

HHCHなどを摂取した場合、摂取した成分100%がヒトの体に影響を及ぼすわけではなく、ある一定の割合のみ全身に広がり、活性効果を発揮するのです。これをバイオアベイラビリティと言い、日本語では生物学的利用率と言われます。
 
 
HHCHのバイオアベイラビリティは、類似する効力を持つと言われるTHCについて調査された、2021年のジャーナル[1]を見ると吸入と食用で体内に成分を取り込める量が異なることがわかります。
摂取方法物質を取り込む量
吸入摂取10~35%
経口摂取4~12%

【食べる】と【吸う】の効果時間の違いとメカニズム

食べると吸うという摂取方法では代謝経路が異なります。
 
 
この違いについて端的にわかりやすく1枚のインフォグラフィックで説明をしていたCCSAというカナダにある薬物使用、依存症センターの情報[1]を日本語訳したものが以下です。

吸入摂取

Vapeやジョイントなどの形態で、物質を水蒸気や煙にして摂取する場合、成分は肺の毛細血管から血流に乗り、脳に達してハイなどの効果があらわれます。
 
効果は摂取後数秒から数分であらわれ、完全に効果があらわれるのは30分以内。その後6時間効果が持続します。

経口摂取

グミやクッキー、ドリンクなどの形態で、口から食べたり飲んだりする場合、成分は胃で消化され、肝臓から血流に乗り、脳に達してハイなどの効果があらわれます。
 
効果は摂取後30分から2時間であらわれ、完全に効果があらわれるのは4時間以内。その後12時間は効果が持続します。

参考:

[1] CCSA (2023/11/22閲覧)

強い精神活性作用物質を口から食べる危険性とは

国内に輸入されてきていたHHCHが食用だったのかという問題はさておき、一般的に吸入摂取よりも経口摂取の方が危ないと言われているケースについてご説明します。
 
 
そもそも「ハイになる」「キマる」という状態は気持ちよかったり、心地よい経験が出来るはずです。そうでなければ多くの人が好き好んで”合法的に”ハイになる/キマる物質を摂取し、苦行のような辛い経験をしたがるわけがありません。
 
 
本来は心地よい経験が出来ると考えられている物質が一転して怖い経験や不快な体験を引き起こすことになってしまうのは往々にして、個人のリミットを超えた量を摂取してしまう、いわゆる過剰摂取です。これをオーバードーズと言います。doseドーズとは日本語で用量なので個人の用量をオーバーして物質を摂取してしまうという事です。
 
 
強い精神作用を伴う物質を経口摂取した場合、効果を感じるまでに時間がかかるため、効果を感じないと勘違いし、つい、もうひとつ、もうひとつと量を増やして食べてしまい、気づいたら過剰摂取に陥っているケースがあります。
 
 
もしくは、1回で食べる物の中に含まれている化学物質の量が多い場合も同様に過剰摂取となる危険性があります。
 
 
そして一度、胃や肝臓から成分が吸収され、血流に乗ってしまうと、指を喉に入れて吐き出そうとしても手遅れなのです。強い精神的、肉体的体験は除去する事ができず、長時間のめくるめく恐怖体験をすることとなり、その状態に耐えられずにぐったりと横になってしまったり、病院に電話をしたりする事になるのです。
 
 
これが強い精神作用を伴う物質を口から摂取する上で最も注意しなければならない過剰摂取を引き起こす要因です。

精神活性作用のある化学物質と酒を比較

OD(オーバードーズ/過剰摂取)する可能性のある物質が合法的に市場に流通するという状態は異常でしょうか?実は酒も同じです。
 
 
しかし酒とこれらの物質は何が違うかというと、酒は政府に管理され、一般大衆の認知度も高く、多くの人が効果を知っているのですが、大麻や、大麻様物質の効果を知ってる人は当然ほとんどいない、という事です。
 
 
厚生労働省からも、「過量飲酒は大きな社会問題となっている」[1]と言われるように、酒の飲み過ぎが健康に悪いという事は、親が子供に、大人が若年者に伝えることが出来ますし、「テキーラの一気飲みで死亡」などのニュースからも、アルコールの主成分であるエタノール過剰摂取の危険性を目にする機会も多いはずです。飲みすぎて具合が悪くなっている親や大人のみっともない姿を子供や若年者が見ることでも、酒の過剰摂取の悪影響を日常の中で理解する事もできるでしょう。
 
 
しかし、違法薬物である大麻や、これらの合成物質の効果を知っている者は酒と比べると圧倒的に少ないのです。つまり、これら精神作用を有する合法成分を未成年者や若年者はどう扱ったら良いのか、どの程度摂取したら良いのかがわからないですし、一般的な多くの大人も知らないので、(祭りで配られた被害者を除き)今回の大麻グミ騒動のように、許容量がわからずODしてしまうのです。

強い精神作用を有する物質が流通する事に対する懸念

HHCHなどの強い精神作用を伴う物質が流通することに対する懸念点は「未成年者への販売」です。
 
 
年齢制限をサイトによっては設けている様ですが「あなたは20歳以上ですか?>YES」で購入する事ができるというのはセキュリティとは呼べませんし、「本品は20歳以上を想定しているため〜」という文言に何の抑制力もありません。
 
 
しかし酒も同じです。
 
 
未成年者が精神作用のある酒を飲みすぎて救急搬送されたとしても、酒造メーカーが罪に問われないのと同じで、今回のグミの製造元も罪に問われる事は無いでしょう。
 
 
ただし、酒とこれら精神作用を伴う物質ではその強度と理解、法整備が異なります。
 
 
興味本位で缶ビールを飲むのと、HHCH30mg配合のグミを一粒食べるのではその体感は全く異なりますし、酒の場合はどの程度飲んだらどうなるかという理解もある程度は出来ているでしょう。
 
 
また、酒は20歳未満の者に販売した場合、販売店は50万円以下の罰金刑を課せられ、親が20歳未満の飲酒を見過ごした場合は科料に処せられ[1]ます。しかし、精神活性作用のある物質の販売者にペナルティが無いのは当然国としてのルールが出来ていないからです。
 
 
酒も、精神作用物質も未成年者のアクセスを100%防ぐことは不可能です。しかし酒の場合は国が管理し、枠組みの中で売買がなされているため、ある程度の制限があるのですが、HHCHなどの化学物質は一切それが無いため、未成年者が容易にアクセスできてしまう、これが一番の問題点であると思っています。

今後の精神活性作用を伴う物質との向き合い方

酒は呼気に匂いが強く残るため、職場や仕事中、運転中に飲んだ場合はすぐわかるでしょうし、場合によっては組織を解雇されることにもつながりますが、合成物質による酩酊状態は、コントロール出来る人であればパッと見ただけではなかなかわからないかもしれません。
 
 
しかし、今後大麻使用罪が創設された場合、大麻のみならずこれらの合成物質もTHCの偽陽性反応が出る可能性があるため、仕事中に摂取し、尿検査などを求められた場合大ごとになることは火を見るより明らかです。週末に摂取をし、月曜日に検査にあった場合も、成分は残留すると言われているため同じ結果となるでしょう。
 
 
更に、合成成分によってハイな状態で運転中に職務質問に遭い、検査でTHC偽陽性が出た場合は業種によっては職を失うかもしれません。
 
 
そう考えると、脱法成分であったとしても、かなり慎重に摂取せねばならず、社会的には違法薬物と同じ様な立場になっていくのではないかと推測します。
 
 
しかし、それでも、精神作用を伴う物質のニーズは一定数あるでしょうから、今後も流通し続けることを考えると、グミなどのエディブルと呼ばれる食べる形態の物には極めて低濃度で化学物質を含める、マーケティング的に効果の強さをアピールしない、ODの可能性がある事を誰の目から見てもわかるように記載する、購入前の事前相談窓口を設ける、未成年者に販売しないための対策(店舗のみで販売し、身分証明書の提示の義務化など)などは早急に行なった方が良いと思われます。
使用罪、偽陽性についての関連記事

まとめ

今回のHHCH大麻グミ騒動は様々なメディアに取り上げられ、「大麻グミで緊急搬送」「脱法大麻」という言葉を見ない日は無いほど、「大麻」というキーワードが多くの人の目に触れることになりました。
 
 
国内で大麻使用罪が創設されようとしている時期に、これだけメディアで「大麻」というキーワードがネガティブに取り上げられるという現象は、一般の人々に対して大麻成分の危険性を知らしめるための、政府にとってある意味有効な”キャンペーン”となったのでしょうか。
 
 
輸入者、製造者、販売者、配布者、摂取者、どこにも違法性が存在しないにもかかわらず社会現象となった今回の件、果たして得をした人はいたのでしょうか。
 
 
今後の精神作用を含む化学物質の動向を見るとそれは明らかになるかもしれません。
 
 
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ということで、

の説明を終わります。

 

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!

 

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